Nukiuchi

Nuki‐Uchi 抜打

overview

This is a technique used with the Zahô (坐法 Sitting technique) Okigatana (置刀 also known as Yasumedachi 休太刀), commonly referred to as “Mineuchi(峰打)” (striking with the back of the blade). In the past, it was classified as Hidachi (秘太刀 a secret technique, also called Hiken 秘剣).

It is a Katsujinken (活人剣 Swordsmanship for Peace) that resolves conflicts without using the blade, causing only bruises or fractures rather than drawing blood.

抜打(ぬきうち)

概要

 これは坐法(ざほう) 置刀(おきがたな)(休太刀(やすめだち))にて用いる技法であり、一般に峰打(みねう)ちと呼ばれる技法で、往時(おうじ)は秘太刀(ひたち)(秘剣(ひけん)とも)に分類されます。

 刃を用いず血を出さないで、打撲、骨折程度で争いを納める活人剣(かつじんけん)です。

 

稽古段階・用法

 稽古では小太刀(こだち)より学びます。

 置刀では、基本的にそのまま抜刀すれば抜打(ぬきうち)となり、詰(つ)め、鞘倒(さやがえ)しまでを一連として学びます。

 まず陽(よう)(左)の置刀から学び、長じて陰(いん)(右)の置刀にても同様に稽古します。

 また段階が進めば、あらゆる技法において、咄嗟(とっさ)に手の内にて返して抜打(ぬきうち)を用いることが出来るようにします。

名称

 単に抜打(ぬきうち)、また抜打(ぬきうち)ノ事(こと)などと呼びます。事とは「単(たん)に技法を指(さ)しているのではなく、それに付随(ふずい)する様々な教えを含んでいる」という程の意味です。

 互いの紲(きずな)を一時的に断(た)つことから、紲太刀(きずなだち)とも呼びます。

 小太刀においては間(ま)が近いことから、誼(よしみ)(親しいの意味)から誼太刀(よしみだち)と呼び分けます。

 また対者(たいしゃ)が痛みで倒れることから坐倒剣(ざとうけん)とも呼びます。(立合(たちあい)では抜倒剣(ばとうけん))

 また刃の影、つまり峰を用いることから秘太刀(ひだち) 影抜(かげぬき)とも呼びます。

 また対者に抜刀させないことから、抜刀破(ばっとうやぶり)とも呼びます。

 また抜刀(ぬきうち)と書き、赤字にて甲(こう)の事(こと)などと書き添(そ)えることで、抜打(ぬきうち)を意味する場合があります。これは抜打(ぬきうち)において手の甲を返して用いる場合がある事に由来する一種の隠語(いんご)です。

 完全に隠す場合は、「甲」の一字、○(まる)に甲、または「甲の事」など以(もっ)て抜打(ぬきうち)を示します。

想定

 口論(こうろん)など諍(いさか)いとなり、対者が刀を取った時に、先(さき)んじて抜刀、峰打(みねう)ちにて対者の抜刀を留(と)めます。

一、基本的な抜打(ぬきうち)

 行(ぎょう)の間(ま)。吾(われ)は陽(よう)(左)に刀を置きます。

 対者が脇指(わきざし)や脇に置いてある大刀に手を掛けようとします。

 対者の気を感じ取り、左の刀を取って先(さき)んじて抜刀し、右足出し居相腰(いあいごし)になりながら峰(みね)にて対者の上腕、肘、前腕、拳などを打ちます。

 また対者との関係性によっては顳(こめかみ)を狙う場合などもあります。

 やや前(すす)みつつ手の内にて切っ先を返して(返さず刃を下のままの場合もあります)、喉元(のどもと)に切っ先を突きつけて詰めます。

 対者が柄(つか)から手を離した瞬間、左手にて鞘(さや)を返して喉(のど)、胸、水月(すいげつ)(鳩尾(みぞおち))などに鞘倒(さやがえ)しを行い対者を倒します。

 即時(そくじ)、忍(しの)び足にて六尺以上退身(たいしん)、残心(ざんしん)より納刀(のうとう)します。

一、点の抜打(ぬきうち)

 間合(まあい)が非常に近(ちか)しい時(心(しん)の間など)です。

 対者が抜刀しようとする刹那(せつな)、先(さき)んじて刀を取って胸前(むねまえ)にて抜刀します。

 この時、足を出さずに両膝(りょうひざ)を割(わ)って(開いて)、上体をやや右に傾けるようにします。

 そして鞘(さや)の鯉口(こいぐち)(またそれを持つ左手にて)で顔(鼻の下・人中(じんちゅう))を打ちます。

 裏(うら)の用法として、親指(おやゆび)を伸ばして目を突く場合もあります。

 その後は、基本と同様に忍(しの)び足にて六尺以上退身(たいしん)、残心より納刀します。

一、稽古法

鏡稽古(かがみげいこ)

 これは二人一組で行う稽古法(けいこほう)です。

 心の間で対坐します。

 共に、置刀では柄頭(つかがしら)を膝頭(ひざがしら)の位置に来るようにします。

 そして同時にやや陰転(いんてん)しつつ抜打(ぬきうち)を行います。

 正しく抜刀出来ない場合には、互いの柄頭がぶつかってしまいます。

 正しい抜刀方法と、タイミングを掴(つか)む稽古です。

 

一、応用・変化について

陽転(ようてん)

 わずかに陽転(ようてん)を併用すると、対者の刀は基本的に対者にとっての陽、つまり吾から見て右側から来るため、間合(まあい)の利(り)が生じます。

 陽転も限度を超えると却って逆効果となりますので注意が必要です。

袈裟懸(けさがけ)・袈裟外(けさはずし)

 基本としての横の抜打(ぬきうち)以外に、袈裟懸(けさが)け、袈裟外(けさはず)しに打つ場合もあります。

 状況に応じて使い分けられるように、いずれも稽古する必要があります。

陰陽(いんよう)と四坐(しざ)の心得(こころえ)

 陽の置刀(おきがたな)の次には、陰の置刀(おきがたな)を学び、また四坐(しざ)の心得として、明(めい)(正面)だけでなく、陰陽暗(いんようあん)(右左後)に対しての抜打を稽古します。

一、注意点

打つ部位による意味の違い

 対者との復縁(ふくえん)を前提(ぜんてい)とする場合には、基本的に上腕(じょうわん)を狙います。

 骨折(こっせつ)しても完治(かんち)しやすい部位であるためです。

 また手や前腕と比較して、あまり大きく動く事がない安定的部位であり狙いやすいためです。

 もし対者と因縁(いんねん)などあり、後遺症(こういしょう)を与える場合には肘関節(ひじかんせつ)を狙う、または顳(こめかみ)を狙うなどします。

 関節部の場合、往時(おうじ)の医療技術(いりょうぎじゅつ)では完治(かんち)が難(むずか)しいため、高確率(こうかくりつ)で予後(よご)に機能障害(きのうしょうがい)を起こします。

 また顳(こめかみ)は言うまでもなく脳にダメージを負わせる可能性があり、また衝撃(しょうげき)で眼球(がんきゅう)が飛び出る眼球脱出(がんきゅうだっしゅつ)を起こさせる事もあります。

 またやや遠い間合の場合には手、前腕(ぜんわん)(小手(こて))を狙うことが有効(ゆうこう)です。

峰打(みねう)ちについて

 峰打(みねう)ちをすると刀が折れるという俗説(ぞくせつ)があります。

 峰(みね)は刃側(はがわ)に比べて強度(きょうど)が低く、そもそも切り裂く斬撃(ざんげき)に対して、峰打(みねう)ちでは反作用(はんさよう)の衝撃(しょうげき)がダイレクトに刀身に加わるという意味において、刀身(とうしん)へのダメージが増加(ぞうか)します。

 ですからフルスイングで押し込むように強打すれば、刀身へのダメージは大きなものとなり、場合によっては折れる事もあります。

 しかしここで用いる打ちというのは、一般にイメージするような強打(きょうだ)ではなく、素早く鋭(するど)く打ち込むものであり、実際に刀身(とうしん)に加わる衝撃はそれほど大きなものではありません。

 あくまでも対者の抜刀を止めることが目的であり、これによって対者を絶命(ぜつめい)させることを目的としたものではありません。

 一定の重量(じゅうりょう)の刀剣を、抜刀の速度(そくど)で打ち込めば、十分に効果的であることは理解できるかと思います。

 一般の素人(しろうと)はともかく、武術指導者(ぶじゅつしどうしゃ)においても、刀の用法(ようほう)を深く理解していない人は多く存在しており、そうした不見識(ふけんしき)において峰打(みねう)ちをいたずらに全否定(ぜんひてい)する人が少なからずいます。

 そうした人々に面と向かって反論(はんろん)する必要はありませんが、正しい刀の活用について理解しておくことは重要です。

 

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