昔、少林寺の本部に居た頃、古い先生の黒帯審査は街のゴロツキに喧嘩を売って勝ったら合格という話や、またヤクザや他武道との抗争の話など聞かされました。
中には、刃物傷がない指はないと見せてくれた先生も居ました。
弟子がリンチにされてヤクザの事務所に乗り込んでいってケジメを付けさせたという話なんかもありました。
そういう時代を感じさせる武勇伝の数々は、男としては滾るものがある一方、だから尊敬するという感覚は生まれませんでした。
なぜかという、人間は状況に応じて豹変する生き物だからです。
ちなみに豹変は季節によって毛が生え変わる豹の様子に由来する中国の言葉です。
それは大層なことで、では今もどうぞどこらの悪ぶってる奴らをひっ捕まえてボコボコにしてきてください。
とは言いませんでしたが、私が言わんとするのはそういうことです。
もしそう言ったら、まあ怒られるでしょうし、そんな時代ではないと言われたことでしょう。
それが当然なのです。「もちろん!今でも半グレやヤンキー見つけると喧嘩ふっかけてるよ!」というのであれば、それはもう反社会的行為です。
時代が変われば世相が変わる、状況に応じて人間も変化します。
平和な時代にわざわざ刃物を持ち出す必要もないわけです。
その先生方は偶々そうした時代、そうした状況だっただけで、それを使った使わないなど、大した自慢にもなりません。
実際、そうしたシチュエーションになった際に、否応なく戦うのjか、戦わずに時に被害を受けるのか?
そのようなことはその時の状況に応じて、判断したり、自然と確定する程度のものです。
もちろん保身(護身)としては、最低限、最悪の状況を想定しておくのは大事ですが、いくら想定したとてそれは絶対の保証というわけではありません。
しかし真剣な避難訓練が、極めて効果的であると科学的に認められているように、護身術やそうした心構えも、十分な効果があります。
話を戻すと、結果そういった状況に置かれると、否応なく時には人殺しもするという事実を、皆さんは最近の歴史的事件から知っています。
それはウクライナとロシアの戦争であったり、パレスチナ紛争です。
以前、戦争に行く前と行った後で人相がまるで変わってしまうという動画が話題になりました。
人間の中には、そもそも凶暴性が一定レベルで存在しており、それは状況に応じて変数的に変化します。
なのでそういう暴力的な経験を積んでいる事は、経験値としては貴重なものですが、それ自体はさして自慢になりません。
ただ、もし周囲でそういう喧嘩自慢的な話をしている人がいたら、もちろん否定せずにすごーい、こわーいと褒めて上げるべきです。
特に男性の場合はそうした経験をトロフィーや勲章とする生き物です。
それは私自身の中にも存在するものであり、それは恥ずかしいものですが、それでも本能レベルで持っているものなので、なかなかコントロールが難しいものであると言えます。
ただ、そうしたものは経験値として貴重でありつつ、自慢するほどの経験でもないという事を理解しておく必要があります。
経験は大事ですが全てではありません。
それを理解しないと、経験豊富な相手に対して経験不足な人は絶対的不利な立場にあると思い込んでしまうからです。
経験が重要である事は当然ですが、同時に自分が相手と同じ経験をしていないように、自分の経験もまた、対者が経験していないものです。
そして皆さんに理解しておいて欲しい大事な事は、喧嘩自慢を語るのは、それが牽制として有効であるという点です。
合戦でも名乗りを上げて、自らの出自から親の勲功や己の戦歴など上げますが、「私はそれだけの存在なので同格の人はぜひ私と戦いましょう!」(基本的に昔の合戦では同格同士で戦う)という意味と、ハロー効果(後光効果。自分の周辺情報が当人の評価を底上げする効果の事)のような威嚇効果も期待出来ます。
同じく合戦で行われた悪口(あっこう)、言葉(詞)争い、ようするにお互いを悪く言い合ったり牽制し合うのも、チンピラの恫喝のグレードアップ版であり、これも立派な兵法の一部という意味では、ハッタリも嘘も大事と言えます。
場合によっては、そうした喧嘩自慢、威嚇行為で争いを未然に防ぐ事も出来ます。
「鞘の中に争いを防ぐ」というのはまさしく天心流(そして宗矩公)の活人剣の思想に他なりません。
ただ私は生来ハッタリが嫌いなので、嫌悪感が強いので、天心流のプロモがいまいちインパクトに欠ける問題点です。
普通に考えて「どの古流も素晴らしい、天心流も素晴らしい」というのは、プロモーションとして最悪です。
地域ナンバーワンとか、◯◯コーラなんか不味すぎてあんなの飲んでたらIQ下がる!みたいなのが正しいプロモーションです。
日本の場合は、少々謙虚が過ぎて良いものが表に出ず、口ばかりで虚仮威しなものが着目されるという問題点があるので、天心流としてはもう少し大言壮語したいと思っているところですが、ともかく今回は、喧嘩自慢についてのあれこれについてお伝えしました。

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