合掌柄下(がっしょうつかくだし)とは、抜刀時に正しく刀に手を掛けることを学ぶための教えです。文字通りに、合掌姿勢より柄に双手を下すという程の意味で、別名「下し合掌(くだしがっしょう)」とも呼ばれます。
脇が開(あ)かないように注意するというのは、多くのスポーツで言われることです。天心流でも、抜刀時に手を掛ける際に、脇が開かないようにすることが重要となります。ここで言う「脇が開く」とは、上腕内側と脇腹に隙間が出来る状態であり、特に両肘が前ではなく横に開くことを意味します。天心流ではこれを「蟹腕」(「かにうで」または「かにのうで」)と呼びます。
この合掌柄下は地蔵抜(じぞうぬき)において技法の一環に含まれる動作となります。
実際には完全に両脇を閉じて抜刀するわけではありません。
急の離(草書)では両脇はある程度開きます。無理に閉じてもそれは動作として最適化にはならないからです。
しかし初学においては、身体の本能的(性癖的)な挙動として両脇が大きく開いてしまい最適化からは程遠い動作になります。
慣れれば相応に「マシ」になりますが、それはマシ以上のレベルとはなり得ず、最適化には到底至らない未熟な段階を越えることは出来ません。
そのためこうした稽古法を通して正しい筋肉と神経を発達させて、こうした挙動を徹底的に矯正する必要があります。
手順
1、まず顔の前、または胸前程で合掌をします。
(合掌は顔前より始めるとより効果的ですが、難しい場合は、胸前より行うと比較的簡単です)
2、そこから両肘を内側に閉じて両脇腹に付けます。
3、両肘を脇腹に付けたまま、後ろにスライドさせて、両手を下ろします。
4、左手で鞘を持ち、左手拇指を鍔に掛けます(拇指で鍔を控える)。
5、左手でやや刀を前方に動かします。
6、右手を出来るだけ垂直を維持するようにして、平手のままに柄に掛けます。
注意点
動作中、両肘を絶対に脇腹から離さないようにして下さい。
確認方法、修正方法として、両脇にタオルなどを挟み、それが落ちないように手を掛ける稽古を繰り返すと良いでしょう。
右手は柄を握らないように注意し、拇指と他の四指で柄を挟むように掛けます。
稽古の目安
初めはゆっくりと、慣れるに従って可能な限り素早く行うと良いでしょう。
但し、この稽古法は抜刀を伴わず「手を掛けるだけ」ですので、最速で行っても両肘は絶対に両脇腹から離れないようにして下さい。
またただ両肘を両脇腹から離さないだけでなく、長じてはより両肘を両脇腹に押し付けるように、あたかも胴部の内側にめり込ませるような心持ちで行うと、より良い動作になります。
これにより、単純に両腕の挙動だけでなく、両肋骨を内側に絞る動作を学ぶことが出来ます。
特に決まった回数はありませんが、ゆっくりと20回程度、素早くは30回程度を目安として、慣れるまで日々繰り返していただくと上達が早まります。
そしてすべての稽古法、技法に共通しますが、修得した後も折に触れてこれを行うことで、身体能力の向上と最適化の確認と、さらなる技術の向上が見込めます。
刀に手を掛けずに抜刀する事は出来ません。
そのため手を掛けるという動作は最重要所作とも言えます。
手を掛けてから抜刀するのではなく、手を掛けるや 否や抜刀するという天心流の抜刀技法を修得するため の第一関門です。
心して取り組んで下さい。

コメント