拝抜-其の壱-

拝抜 Ogaminuki

 

今回の技法は拝抜(おがみぬき)です。

これは立合・立相(たちあい)一本抜、点抜(てんぬき)の一つで、特に礼法と足腰の働きを学ぶ上で非常に重要な初学の技法です。

 

基本を学ぶのはもちろんのこと、礼の姿勢より抜き放つ不意打ち(抜討・上意討ち)の技法でもあります。

 

名称

 拝抜は別名を一揖抜(いちゆうぬき)、揖刀(ゆうとう)、唐竹割(からたけわ)りとも称します。

 揖とはお辞儀を意味する言葉です。一揖抜きは一礼をして抜刀する、揖刀は礼をし抜刀するという程の意味があります。唐竹割りは竹を真っ二つにするように、真っ向に切り下ろすという意味です。

 

 ここでの「拝み」とは合掌礼のことではなく、真の礼より合掌する如く柄に手を掛けて(上げ合掌)抜き討ちにするという意味において「拝み抜く」ことから転じて拝抜と称します。

 

想定

 近い間合で対者に真の礼を行います。そこから不意を打つ形で面を上げつつ抜刀、双手で真っ向に切り下します。

 

 通常は武家の儀礼では近い間合で応対しないため、実際には羽根抜き(両脚揃えで小さく跳ねる)を用いて間合を詰めるなどします。

 

 また応用として陰陽暗(右左後)に転じて対者の攻撃を避けつつ反撃する場合もあります。(動抜)

 今回は基本となる点抜のみ解説します。

 

■手順

 足幅は結立(むすびだち)か閉足立ち(へいそくだち)より行いますが、結立より行うと正しい足の形を学びやすいため初学では特に結立より行ってください。

 

まず結び立ちより、両手を開手(ひらで)にして両腿に置きます。

真の礼を行います。礼は丁寧に行うように心がけて下さい。

礼も稽古の一環です。正しい礼法なくして、正しい技法は身につきません。

 

面を下げたまま、合掌するように双手を刀に掛けて(上げ合掌)、左手親指で鯉口を切ります。

鞘引きと共に「指(さ)しなり」(帯刀の角度を守るように)に抜刀すると共に、上体を起こします。

刀を握った右手を龍の口として、次いで左手を龍の口で柄に添えます。

 

上体を反らして、真っ向に切り下ろし、両股関節を大きく開いて両膝を大きく広げ、両足のつま先を外に開きつつつま先立ちとなり、お尻を前に出来るだけ突き出すようにします。

 

そして切っ先を上げて、両足を均等に左右に開いて馬上立となり、点の青眼を取り残心します。

納刀には定めがありません。

 

基本的に対者の額から顎にかけて切ります。

■注意事項

 

手の掛け方

刀には合掌するように手を掛けます。これを上げ合掌(あげがっしょう)と呼びます。これによって脇を絞って正しい形になり、抜刀もスムーズに行えます。

しかしただ合掌を行っても正しい形になりません。この上げ合掌が教えるのは両肘が外に開かないように刀に手を掛けるということです。

人間は本能的に脇を開いてしまう習性があります。

ですから繰り返し矯正し、身体機能を後天的に獲得出来ないとこの癖は矯正出来ません。

そのため初学では両肘を左右の肋(あばら)に完全につけるように意識しましょう。

これで脇を締める身体機能を獲得出来ます。

 

抜刀時の姿勢について

抜刀時には腰(主に股関節)を基準にして上体を起こします。

抜刀の時によくやってしまう間違いは下記の三点です。

 

①抜刀時に膝を伸ばしてしまう

②抜刀時に背中を反らしてしまう

③抜刀時につま先立ちになってしまう

 

つまり正しい抜刀時の姿勢とは下記のようになります。

 

①膝は伸ばさずそのまま(より曲げもしません)にする

②つま先立ちにならない

③背中は基本的に反らさない(上体を起こすことで、必然的に、自然に反るのは許容されます)

 

また、抜刀を終えて左手を柄に掛けた時点(ないしはその直前)、つまり切り下ろしの直前には、上体はまだ僅かに前傾しています。

垂直ではありません。

 

抜刀時の右手の軌道

抜刀の際の右手の軌道についての注意点です。

特に初学では右手はやや弧を描いて中心に来ます。

釣瓶抜では直線に抜き上げることを大事としますが、拝抜は釣瓶抜と似形でありながら、抜刀方法が微妙に異なるので注意が必要です。

実際には、離の段階では右拳がほぼ直線を描くように抜いても差し支えありませんが、初学でこれを行うと、いくつかの弊害が生じて完技(かんぎ)を妨げます。

 

真上に抜くと下記のような弊害が生じます。

 

①初学から真上(直線)に抜刀しようとすることで、右拳が人中路(中心線)より左に行きやすい

②初学から真上(直線)に抜刀しようとすることで、抜刀の際に半身になってしまう(上体を左に捻ってしまう)

③初学から真上(直線)に抜刀しようとすることで、上体を急激に起こすことになり、抜刀終了時点で過剰に反り身になってしまい、斬撃力が低下し、リーチが短くなり、刃筋が不安定化する

上体は半身にはなりません。

しかし釣瓶抜も同様ですが、左脇近くを抜刀した刃が通るため危険です。

ですから多くの人が胸を左に捻って抜刀してしまいます。

しかし(胸骨は極力正面を向いたまま)左肩関節のみを後ろにスライドすることで、切っ先が左脇に当たらないようになります。

 

右手の内について

守(楷書)では、頭上で手の内を作ることが重要になります。

まず右手が最高地点に到達した時点で、右拳を龍(たつ)の口とします。これにより柄頭が下がります。

左手を掛ける際にも、手の内は龍(たつ)の口となります。

 

もし手の内を働かせないと、切っ先が下がったまま、柄頭は上がったままとなり、左手が届きません。

そのため右肘が曲げる原因(癖)になります。

抜刀のため伸展した肘を、一度曲げてから伸ばすという動作が、溜め動作となって癖になります。

 

手の内と切っ先について

振りかぶった際に、手の内が整うと自ずと切っ先は人中路(人体の中心線)に来るため、真っ向の刃筋が整います。

振りかぶった際に手の内が不十分な場合には、切っ先が人中路(人体の中心線)を外れているため、切り下ろしの初動で刃筋が狂います。

 

左手の軌道について

左手は左腰から直線に柄に掛けます。しかし、人体の構造上、特別に訓練をしなければ左手は湾曲して挙上されます。

また、肩関節が支点となって腕を稼働するという人体構造であるため、急で行うと必ず遠心力が働くため、やはり左拳はわずかに外側に膨らみます。

そのため、特に初学では内側に弧を描くようにします。

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