身影返
これは動抜に分類され、急襲に応じる襲守剣(しゅうしゅけん)の一種でもある抜刀技法です。
楷書(守)での抜刀
解説
これから身影返(みかげがえし)の解説をしてまいります。その前にまず身影返の状況について説明したいと思います。
実際のシチュエーション(状況)
今、代表的な3つの状況を行いました。
最初は後ろから相手について来られて、自分が斬りかかられる、
次に相手が物陰に潜んでおり、自分が通りすぎた後に切りかかられる、
最後に相手が自分に向かって走ってきて切りかかられる、これら3つの状況を皆さんに見て頂きました。
これからご紹介する身影返は、後ろから襲われる、切りかかられる際に対応するための技になります。
それでは身影返の技法について具体的に解説していきます。
身影返は足の動作がとても重要です。まず、中墨と呼ばれる、彼我(ひが、相手と自分のこと)を結ぶ線から身体を外さないといけません。中墨から身体を外すために、まず左足を自分の真横に持っていきます。これが大事です。
左足を自分の真横に持ってきた後に、身体を回転させていきます。
この時、左足の回転の軸はつま先に、右足の回転の軸は踵(かかと)になります。
そして途中から左足の回転の軸を踵に、右足の回転の軸をつま先に切り替え、続けて回転していきます。
もう一度行います。
まず左足を自分の真横に持っていきます。
左足の回転の軸はつま先に、右足の回転の軸は踵(かかと)にし、回転していきます。
そして途中から左足の回転の軸を踵に、右足の回転の軸をつま先に切り替え、続けて回転していきます。
この足の動作がとても大事です。
中墨から自分の身体を外した際に、気を付けてほしいことは両足の前後の幅です。
実際に身体を最後まで回転させた後、右膝を折りたたむようにしながら地面に付けて下さい。その時、左足の踵と右足の膝の幅がこぶし一個程度入るかどうかを最初のうちは確認して下さい。
もう一つ、足運びで気を付けてほしいことがあります。
身体を最後まで回転させた後、自分の右足を左に平行移動してみて下さい。右足のつま先が左足の踵に付くか付かないか程度であると良いです。
右足がこのように間隔が空いてしまうのは良くありません。足を揃えて立ち、そこから右足をまず一足分後ろにずらし、次に右にずらしていった後の足の間隔を保つようにしてください。
続いて、抜刀について説明していきます。見やすいように横からご覧ください。
刀の柄に手を掛け、鞘引きを行いながら、左足を右に移動します。そして刀を最後まで抜切ります。
そして手首を返して刀の切っ先を返しながら、さらに肘を自分の身体に引き付けるように曲げてこの姿勢になります。
刀を抜ききった後、右の前腕が水平になるようにしてください。また、刀の切っ先はほどよく下げることが大事です。刀の柄を握ってしまうと刀の切っ先は上がってしまいますので、柔らかく柄をもち、さらに「龍の口(たつのくち)」と呼ばれる手の形を保つようにしてください。
刀の切っ先を下げるように、と述べましたが、皆さんは腕を下げてしまいがちです。先ほど申したように、右の前腕は水平にし、その状態で刀の切っ先のみを下げるようにしてください。
刀を抜きつつ、左足を右に移動します。
足捌きで身を回転させながら、肘を自分の身体に引き付けるように曲げて、この姿勢になります。
さらに足捌きを続けて身体を回転させながら、両腕を前に出すようにしつつ、相手の左胸乳首から右脇下を切り上げます。
切り上げたのちに、刀の柄を前に出すようにして刀の峰を左肩に載せながら、さらに左足を引きます。天心流では構えのことを「位(くらい)」と呼び、この姿勢を「肩掛ノ位(かたがけのくらい)」と呼びます。
肩掛けの位の注意点は、
刀の柄頭が自分の中墨にあること、
刀の柄頭の高さを自分の鳩尾の高さに合わせること、
刀の峰を鎖骨の末端部に当てるようにすること、
そして刀の刃をやや外側に向けておくことです。
刀の峰を内側に置き、刀の刃も内側に向けておくと、咄嗟の時に自分の耳を切ってしまうかもしれません。
ですから「肩掛ノ位」をとるときは、刀の峰を鎖骨の末端部に当てる、そして刀の刃をやや開いておくようにしてください。
そして「肩掛ノ位」から「青眼(せいがん)」に位を変えます。
次に残心をとります。
頭の中で、臨(りん)・兵(ぴょう)・闘(とう)・者(しゃ)・皆(かい)・陣(じん)・烈(れつ)・在(ざい)・前(ぜん)と唱えます。
続いて、柄頭と刀の切っ先を結んだ線が地面と平行になるまで刀を下ろしていきます。
右手で刀を回転させ、さらに右手で柄を打ちます。
右手を順手から逆手にし、手を返すことで刀の切っ先を上にあげます。
刀の切っ先は自分の左肩の上にくるようにします。
その動作をしながら、鞘を前に引き出し、鞘の鯉口と刀の峰を合わせます。
次に、右手は右斜め前に出すようにし、左手は鞘を帯まで押し込むようにします。
両方の手を同じ速度で動かしていき、刀の切っ先が鞘に入ったときに鞘を刀に被せます。
右腕の肘の角度に注意してください。
刀の切っ先が鞘に入り、そして鞘を刀に被せたときに、右腕の肘を90度になるように曲げて下さい。ここが重要です。
右手は刀を鞘に納めていき、左手は鞘を引き出していきます。両方の手を同じ速度で動かして、鍔が自分の中墨にくるようにします。
鍔が中墨まできたら、左手の親指と人差指で刀の鍔を控えます。
左足を前に出し、閉足立(へいそくだち)に戻ります。
右手を柄頭にもっていき、刀を鞘にしっかりと納めます。
右手を右腰につけ、左手を左腰につけ、ゆっくりと腕を下ろしながら、立ち方を最初の結立(むすびだち)に戻ります。
転柄血振るい(てんかちぶるい)と逆手納刀(さかてのうとう)の解説
逆手の納刀について、特に転柄血振るいの所作について詳しく見て頂きます。
先ほどの解説と同じように、柄頭と切っ先を結んだ線が床と平行になる程度に刀を下ろします。
そして転柄血振るいを行います。血振るいを行うとき、わかりやすく説明しますと中指と薬指の二指を使い、柄に引っ掛けます。しかし実際はこのように「龍ノ口(たつのくち)」という手の形のまま血振るいを行います。最初のうちはどうしても握ってしまうのでこの中指と薬指を柄に引っ掛けて血振るいを行うと良いでしょう。
中指と薬指を使って刀を回します。単に刀を回す、というよりも二指を柄に引っ掛けて左側に右の拳が来るようにします。
そして先ほどの説明と同じように「烏賊ノ口(いかのくち)」という手の形で右こぶしを左の肩口にぶつけ、そこで止めずに即座に柄を打ちます。
鍔を打ってしまうと骨折することがありますので気を付けてください。
柄を打つときは、刀をもっている時の右手がそのまま「烏賊ノ口」の手の形で柄の上に来るようにすると、良い位置で柄を打つことができます。
拳の先が左側を向かずに切っ先を向くように打つと、肘が絞れて良い形になります。
もう一度行います。
慣れてくればくるほど、小さく動いて血振るいを瞬間的に行うことができます。
「転柄(てんか)」は“転”がす“柄”と書き、柄を転がすように刀を回して血振るいを行うので「転柄血振るい(てんかちぶるい)」と呼びます。
右手を順手から逆手に変えるとき、握ってしまわないように注意してください。
柄を挟むような心持ちで手を添えて右手をもっていきます。
この2点について注意していただければと思います。
草書(守)での抜刀

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