残心について

残心について

残心とは、日本の芸道において、一定の所作を終えた後などに、緊張感を持続させる心構えを指す用語です。
こんにちは、井手柳雪(いでりゅうせつ)です。
TENSHINRYU ONLINEのメンバーから「残心とは何か?」と聞かれました。そのため、今回時間を取りまして、残心について解説していきたいと思います。
残心には二つの意味合いがあります。
一つ目は形などの動作や所作を終えた後、そのまま緊張感を持続させることを指します。
例えばサッカーを例として使いますと、私たちのチームが一点入れて、喜んでいた束の間、相手のチームに一点入れ返されたとします。それは緊張感を持続させずに、油断をしてしまったためです。人は油断しがちなので、動作や所作を終えた後も、そのまま緊張感を持続させなさい、という意味になります。
もう一つは、高揚感を静めて治めることを指します。実戦の中で相手を切った、あるいは相手を殺した後は非常に心が高ぶっている状態になります。そうしますと、周りが見えなくなってしまい、何かミスを犯してしまいます。普段はやっていないのに、その時だけどうしても心が高ぶってしまい、エラーを犯してしまいがちです。そのため、高揚感を静めて治める、という意味合いも残心にはあります。
これらが残心の大きな意味合となります。
では、この残心を技法の中で考えてみると、何が残心に当たるのでしょうか。よく技法の解説の中で、九字を唱え、残心を取りなさい、と私たちは指導しています。これは言い換えますと、時間を取りなさい、という意味合いになります。
時間を取ることで、高揚感を治めなさい、また時間を取っているときも緊張感を持続させなさい、そのような意味合いで、私たちは「残心を取りなさい」と指導している訳です。
残心はスポット的な考えではありません。
この図をみますと、相手を真向(真っすぐ垂直に切る)あるいは袈裟に切ったのち、その場から下がるところから最後に踵立(くすびだち)あるいは結立(むすびだち)に直るまでの間はずっと、残心の心構えを維持し続けなければなりません。
例えば、実戦の切り合いの中、相手を切った後にその場から離れ、安全な場所まで行く、それまでの間はずっと残心を維持しなければなりません。演武の中では、演武が終わるまでずっと残心を維持しなければなりません。
ここではより詳細に、抜刀の動作を確認しながら、残心について見ていきたいと思います。
真向、あるいは袈裟に切った後は必ず六尺(約180cm)下がらなければいけません。六尺下がった後は真向に切った後は雲居(くもい)の位、袈裟に切った後は大袈裟の位を取りますが、これらの位は六尺下がるために取った位なので、すぐに雲居の位から切雲(せきうん)の位を、あるいは大袈裟の位から八草(はっそう)の位をとります。
この後、皆さんがよくやってしまいがちなのは、切雲あるいは八草の位から時間をとらずに、間を空けずに青眼の位になってしまうことです。切雲あるいは八草の位から青眼の位をとるまでの間、しっかりと九字を唱え、心の緊張感を保ちつつ、高揚感を静めて治める必要があります。
さらに、青眼の位から血振るいまでの間も、九字を唱え、時間を空け、緊張感を持続させて、高揚感を静めて治めてから、血振るいを行う、という心持が大事です。
血振るいを行った後に納刀を行いますが、「早納刀(はやのうとう)」という方法は例外として、すぐに刀を鞘に納めてしまいがちです。納刀の際は、刀が曲がっていないかどうか、周りに伏兵がいないかなど、常に緊張感を維持し続けながら納刀していかなければなりません。
抜刀の動作を確認しながら、よく皆さんがやりがちな、残心をとっていないところを解説致しました。
残心は非常に大事なので、稽古の中では、特に今指摘したところを直しながら、稽古を続けて頂ければと思います。

 

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