柄打のブラッシュアップと稽古法~其の弐~

今回は柄打のブラッシュアップと稽古法について解説を行います。
柄打は単純な基本の技法になりますが、強く打つのは簡単ではありません。

チェックポイント

細かく見ていきましょう。まずは親指についてです。

初学の場合においては、鯉口が緩いと、意図せずに刀が抜けてしまう危険性があります。
※これを「鞘走る」(さやばしる)と言います。
特に対者を付けている場合は危険ですから、鍔に拇指を深く指をかけるように指導しています。

しかしこれは実際には不要です。なぜなら武士が平生用いる差料は、稽古用の刀と異なり、通常はそこまで鯉口が緩いということがありません。ですから最初のうちは安全のため、鍔に深く拇指を掛けることを推奨していますが、慣れるに従い拇指は浅く鍔に掛けます。
イメージとしては、ちょっと親指が伸びるぐらいのつもりで鍔に掛けます。
そうすることで、鍔と人差し指の間に距離ができます。鍔と親指の接点と小指に距離があることによって鐺が下がりにくくなり、刀を水平に保つことが出来ます。
これが一つ目の大事な点となります。先ほど解説した通り、初学のように親指を鍔に深く掛けると、必然的に小指側も鍔に近くなり、この二点の距離が短くなるため、テコが十分働かず刀が重くなり鐺が下がります。
(もちろん実際の刀の重量が変わるのではなく、掛かる負荷が増大するという意味になります。)
そのため、特に初学ですと左手を鞘の下に添えて支える方法も奨励されます。
しかし慣れるに従って、先ほど言ったように拇指を鍔に浅く掛けて、親指と小指までの距離を長く取ることで、軽く小指で鞘を下から支えるだけで、鐺側を高くすることができます。
これによって刀が水平に近くなり、柄打の際に力がダイレクトに標的に伝わって強く打てることになります。
これが一つの重要な点です。

もちろん柄打は突き打つだけではなく、小手を打つという使い方もあります。
ここで示しているのは喉、鼻の下(人中)、胸、水月(みぞおち)等を打つ(突く)場合であり、刀が床と平行となるような状態となるのが望ましいわけです。
(但し、水月など低い位置の場合は、身体を前傾させて打ち、刀もやや前傾気味になります。この場合腕と刀が平行と考えて下さい。)

置刀を取った際に浅く手を掛けます。
この時点で、人差し指は鍔に付かずに、少し離して持ちます。この点に注意して稽古して下さい。

ブラッシュアップ

そしてもう一つの修正点です。
柄打で多くの人に見受けられるのが、打つ相手に対して自分の腕と刀の両方をまっすぐに向けてしまうことです。
実際的には、右脇と鞘が当たるので、完全に両方を真っ直ぐに向けるというのは不可能かと思います。
しかしそのようなイメージで行うと、柄打の威力が大変弱くなってしまいます。

実際には腕と刀が交差するような形となります。
自分の右腕と刀は、わずかですがクロスしなければなりません。
つまり、鐺は若干自分の体の外側に来ます。しかし刀は打つ対象に対してはまっすぐになっています。
力をストレートにぶつけるためです。
腕と刀の両方を完全に平行にすることは出来ませんから、刀をまっすぐにするためには右腕は少しだけ外側に開くようにしなければなりません。
これによって強く打った際に起きる反作用、反動に負けない柄打となります。
実際に柄打を行った姿勢で、誰かに柄頭を押して貰うとわかりやすいでしょう。
自分の腕をまっすぐに向けるのと、わずかに外側に向けて行うのと、どちらがより強いのか試してみて下さい。

稽古法の紹介

それでは柄打における天心流のユニークな稽古法を紹介します。

一、正しく行えているかの確認
二、より良い姿勢を作る訓練
三、大きく退身する訓練を行う

この三つを同時に行える大変優れた稽古方法です。

まず二人一組で対座し、二人で同時に柄打を行います。
※この際の間合は、二者が前進するため、通常より遠間で対坐する必要があります。行の間などやりやすい間合を調整して下さい。

互いに左手の平を胸の前に置き、互いの柄頭を手の平で抑えます。
そして打った後に、お互いに柄頭を前に押し合い互いに十分な良い姿勢が取れているか、押されて崩れないかを確認します。

★注意点★
これは倒し合いではないので、無理矢理押し合ってはいけません姿勢の確認を終えたら、互いに同時に「いち、にののさん」で互いの柄頭を左手で押し合います。

柄頭を押される力を互いに利用して、出来るだけ大きく後退し、撞木足となります。
お互いで押し合って簡単に態勢が崩れるようでは、姿勢が不十分である、間違っていると言えます。

相手がおらず、一人で行う場合には、壁など何か強い物に対して柄頭を当てて、それを押すという方法で代用出来ます。
本動画では壁の代用として人に抑えて貰います。
まずは柄頭で対者の手の平や壁を押してみましょう。
今度は逆に柄頭を押してもらいましょう。
一人の場合は限界がありますが、こういった形である程度姿勢を確認し、またより強い姿勢を作ることが可能になります。
先ほど通り、右腕と刀がクロスして、Xになっていれば強くなります。
ところが、互いを平行にすると弱くなります。必然的に柄打の威力が弱まるということです。
これが正しい位置関係になっていれば、体で強く押すことが出来ます。
これを先程紹介した稽古法か、人に押して貰うか、壁を使うなどすれば確認することが出来ます。

互いに押し合う稽古法は本来必須の稽古課題です。
出来るだけ機会を作って試して下さい。

終わりに

柄打は動作手順は単純な技法であり、また初学の技法ということもあり軽視されがちです。
しかし実際には非常に奥が深い技法です。
ですから細かい点までよくよく注意して稽古して下さい。
初学の技法であるからこそ、「常によりよく進歩して、実用に耐えうるレベルに高めよう」という高い向上心がとても重要です。
もちろんこれは柄打に限った話ではありません。

基本、初学と呼ばれるような技ほど、年々精度を高めていかなければなりません。
それだけ稽古回数も多いはずの技法なのですが、意外と途中で上達が止まってしまいがちです。
「なんとなくできている」という所が基準となってしまい、深く技法を追求しようという意識が希薄で妥協してしまうというのが一つの原因かと思います。
ですから、自分の中にちょっとでも「うまくいかないな」という意識があったらそこに焦点を当て下さい。
不足感、違和感から目を逸らさずに、どこまでも丁寧に丁寧に形を求めて稽古を行って下さい。
そうすれば常に上達する柄打、また土台となる技法となることでしょう。
基本、土台となる技法は、更に難しい技法、上級者向けの技法を修得するための必須前提となっています。
基本が向上しない限り、相対的に全体のレベルも上がらないという現実があります。
これは武術に限らず、あらゆる芸事で同じことが言えますが、「ただ長くやっているだけの人」にならずに、常に上達ができるような稽古を目指していただければと思います。

今回は柄打のブラッシュアップでした。

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