手の内~壱~

手の内は様々な意味を持つ用語ですが、武術では特に刀の握り方、またその手の形などを指して使われます。
刀と我の唯一の接点であるため、非常に重要になります。

手の内の実演

解説

今回は天心流における刀の持ち方について解説していきます。
以前、天心流で用いられる代表的な手の形の一つとして「竜の口(たつのくち)」の紹介をしました。今回は刀の握り方に焦点を絞って手の内の解説をしていきたいと思います。

手の形について

まずは手の形についてです。通常、人が棒状の物を握るときには、このような握りこぶしになります。四本の指全てが平坦になりやすいです。
しかし刀を握る際は、小指、薬指、中指の三指を段差をつけるように、斜めに握りこんで手の形を作っていきます。
人差し指と親指は他の三指と独立しており、中指や他の指に触れないようにします。
側面からみると、親指と人差し指が竜の口のような形になることから、この手の形を「竜の口」と書いて「たつのくち」と呼びます。

実演解説

それでは実際に刀をもってみましょう。
剣術などでは、まずこのように左の掌の上に刀の柄頭を乗せます。そして左手で柄頭をくるむようにして握り、手の内を作ります。この際、左手は竜の口の形になります。
柄頭をくるむようにして刀を持ち、左手の小指が柄頭から外れるようにします。
そして右手は縁金(ふちがね)と呼ばれる金具に触れないようにして竜の口の形で刀をもちます。
刀を握っているときは左手右手両方とも、親指、人差し指、中指が独立し、それぞれ触れないようにします。
また、鍔と右手の間に生卵を一つ乗せることができるくらい、スペースを空けることが大事です。

大切なことは柄と手の角度です。
通常、物を握ると、四指がフラットになるように握り込んでしまうため、柄と手が90度になった状態で刀を持つことになります。
しかし刀を使う場合はそのようにはせず、手の内の生命線に沿うように、柄に斜めに手を掛けて、握りこんでいきます。
このような角度がついています。
薬指側の手首から人差し指の付け根に向かって、おおよそ斜めになるように手が柄に掛かるようにします。
これは左手、右手ともに基本的に同じです。

通常、刀を握る際は、やや内側に両手共に絞り込みます。あまり過度に絞ってしまうと肘が伸びてきてしまいますので、切りの際以外はやや絞りが緩んだ形になります。
ここに合谷(ごうこく)と呼ばれる人体の急所があり、それが少し内側に来る程度に手の内を作ります。
刀を切り下ろす際はさらに手の内を絞って切り込んでいきますが、刀を握っているときとは絞り具合が少々異なりますのでご注意下さい。
手の内の絞りが甘いと両肘が開いてしまい、咄嗟に対応できない弱い姿勢になってしまいます。そのため、左手右手ともに内側に絞ることが大切です。

この手の内の絞りのことを「雑巾絞り(ぞうきんしぼり)」と呼びます。このような布状の雑巾を両手で絞ります。
現代ではこのように雑巾を絞ることが多いですが、本来の絞り方は両手を内に捩り、それを外にグッと返すことで雑巾を絞っていきます。
このようにすると、肘を伸ばす働き、そして手の内が締まる働きによって、自然と力を入れずに水を絞り切ることが出来ます。

先ほど申したように、切るときと構えているときの手の内は微妙に違いますが、基本としてはちゃんと絞ることが出来ていなければ肘が開いてしまい弱い姿勢になってしまうので、この雑巾絞りの手の内の働きは大切な基礎となります。

抜刀術などで刀を抜いた後に咄嗟に左手を柄に掛けるときは、柄頭を正確にくるむように持つことは難しいため、もう少し鍔側を持つようにします。
しかし剣術など、余裕がある際は出来るだけ柄頭をくるむように刀を持つことで、右手と左手の間隔をあけて、てこの原理を利用するようにします。

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