嚔抜

嚔抜

これは動抜に分類される、呼吸と足運びを学ぶための抜刀技法です。
基本的にゆっくりの稽古のみ行います。
(上錬者は素早い殺守剣の応用稽古を行います)
井手メモ
殺守剣 sasshuken
二人一組で抜刀術の攻防を行う稽古方法のこと
楷書(守)での抜刀
名前の意味について
これから嚔抜(くさめぬき)の解説をしていきます。まずその技の意味について説明します。
嚔抜には呼吸法、そして基本的な身体動作が含まれています。嚔抜の「嚔(くさめ)」という意味は「ハクシュンッ!」というこの「くしゃみ」から来ています。
また嚔抜の別名は閊太刀(つかえだち)」と呼びます。この「つかえ」は「胸がつかえる」という日本語の表現から来ています。
くしゃみ、すなわち「くさめ」と「つかえ」はこの技法の動作と関連しています。これについては、後ほど技を解説する際に触れていきます。
嚔抜(くさめぬき)には別の漢字が当てられています。それは「草芽抜(くさめぬき)」です。木はまず根が育ち、草芽が育ち、枝が伸び、枝に葉がつき、次第に幹が太くなり最終的には大木となります。この意味合いが「草芽」という言葉に含まれています。
木が育っていく、という表現は嚔抜の動作と関連しておりますが、また嚔抜を始めとして天心流の技を稽古していくことで自分自身が成長していく、という思いも含まれています。
ですからこの嚔抜をしっかりと稽古して下さい。
解説
嚔抜の技について解説いたします。まず動作のみを先に解説し、呼吸法は後ほど解説いたします。
このように「結立(むすびだち)」「踵足立(くすびだち)」と呼ばれる立ち方から行います。両足の踵をしっかりとつけて立って下さい。またつま先の角度は60度程度として、あまり開かないようにして下さい。
まず膝を緩めながら、刀の柄に手を掛け、「百足足(むかであし)」を用いながら右足をつま先の方向へ前に出していきます。
井手注)百足足とは、足の指で地面を握るように曲げる動作を繰り返すことで、すこしずつ足を前に出していく動作のこと。百足のような動きから。
この時、しっかり鞘引きをすることを心がけて下さい。
切っ先が前に出てきても、足を前に出し続けることを止めないで下さい。これ以上足を前に出せない、無理だ、というところまで来ましたら、身体捌きと一緒に横に切っていきます。
この時、自分の胸は対面、前を向いていることに注意して下さい。
次に、右手を下ろし、自分が最初にいた位置まで戻ります。
横に切り終わった後、動画中の板の線に沿うような形で、まっすぐ後ろに右足を引いてしまいがちですが、これは間違いです。横に切り終わった後は、自分が最初にいた位置まで戻ることに注意して下さい。
右手を下ろし、自分が最初にいた位置まで戻ります。この時、右足の踵を左足の踝(くるぶし)につけて「撞木足(しゅもくあし)」という状態になります。また、刀の柄頭で自分の鳩尾をうち、同時に左手は刀の柄に沿える形にします。
左手の形はもう一つあり、このように左手の手の平を前に向けて、手の平の中心に柄頭を当てるようにします。
刀の柄頭で自分の鳩尾を打ちます。
冒頭に説明した閊太刀の「つかえ」は「胸がつかえる」、これは「胸がつまる」という意味合いになります。刀の柄頭で自分の鳩尾を打つ、この状態はつかえている、つまっている状態を表しています。そのため、この技法を「閊太刀(つかえだち)」と呼びます。
次に右斜め45度の方向へ右足を前に出していきます。
右足を出していきながら、左手で右手を押していきます。できるだけ遠くに自分が移動しながら、刀の切っ先で相手の鳩尾を突きます。
そして左手を左腰につけ、右手を右に返して刀の切っ先を下げ、動画中の板の線に沿うような形で、まっすぐ後ろに右足を引きます。
右足を引きながら、右手を左に返しつつ、左手で右手の手首を叩いて血振るいをします。ここで頭の中で、臨(りん)・兵(ぴょう)・闘(とう)・者(しゃ)・皆(かい)・陣(じん)・烈(れつ)・在(ざい)・前(ぜん)と唱えます。
物打(ものうち)から切っ先に向かって左手で血を拭っていきます。左手が切っ先まで来たらその切っ先をつまみつつ、鞘の鯉口までもっていきます。
刀の切っ先が鞘に入ったときに左足をまっすぐ後ろに引きつつ鞘を刀に被せ、頭の中で「無(む)」と唱えます。両方の手を同じ速度でゆっくりと動かしながら刀を鞘に納めていきます。刀の鍔が中墨まで来たら、左足を前に出します。
右手を柄頭までもっていき、ここで刀を鞘へ押し込み、しっかりと鞘に納めます。
右手を柄から外して右腰につけ、左手を左腰につけ、そして両方のこぶしをおろしながら最初の結立に戻ります。
この嚔抜、閊太刀は実際に相手を想定したものではなく、一人自ら行う単独の稽古法です。足捌きなどが煩雑な技ですので、相手を敢えてつけたらどうなるか?ということをこれからお見せいたします。
間合いは行の間程度で立ち、向き合います。
刀を抜き、右斜めに向かいながら、相手の目ないしは首筋を横に切っていきます。
通常の場合、例えば間外(まぬけ)と呼ばれる技法では切り終わった後、自分の胸が相手を向くように身体を動かしていかなければなりません。しかし嚔抜では切り終わった後、自分の胸は最初と同じ方向を向いていなければなりません。
そして、最初に居た位置まで戻ります。目ないしは首筋を切られた相手は最初の方向からおよそ45度左に傾いた状態となります。自分が右斜め45度に前に出ながら、右こぶしを自分の肩より上げることで刀の重みを使って上から相手の鳩尾を突きます。
ここからは最初に居た位置に戻るのではなく、まっすぐに後ろに下がります。
足捌きの角度などは非常にややこしいので、動画中の図面も参考にして稽古してください。
呼吸法についての解説
嚔抜という技法にはとても大事なものがあります。それは呼吸法です。
これから動作と一緒に、呼吸法について解説していきます。
膝を緩め、右足を出していき、刀で相手の首筋ないしは目を切っていく動作をまず行いました。この動作の最初から最後まで、鼻で少しずつ息を吸って下さい。
身体が震えるくらいまで息を吸い続けることが肝心です。
※注意事項
TENSHINRYU ONLINEの中には呼吸器官に問題がある方、具体的には喘息をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。その際には控えめに鼻で息を吸う呼吸法を行って下さい。
鼻で息を吸い、身体の中に空気が充満している状態になっているかと思います。
次に、右手を下ろし、自分が最初にいた位置まで戻りながら、刀の柄頭で自分の鳩尾を打ちました。この時、これまで身体に溜めた空気を圧縮するようにしてください。
ここから、圧縮した空気を相手にぶつけるように息を大きく吐き出しつつ、右斜めに足を出して相手の鳩尾を突いていきます。
十分に吸った息を、刀の柄頭で自分の鳩尾を打つ動作で圧縮・凝縮し、相手にぶつけるようにハッと出します。
実際に「ハッ」と声を出すわけではありませんが、息を大きく吸って溜め、圧縮し、相手にぶつけるように吐き出せば自然と声が出てきます。それくらい息を吐きだすようにしてください。
冒頭、嚔抜の「嚔(くさめ)」という意味は「ハクシュンッ!」というこの「くしゃみ」から来ていると説明しました。圧縮した空気を前に吐き出す、この動作が「くしゃみ」にかかってきます。
くしゃみは皆さんご存知の通り、すごい勢いで空気が出ていきます。このようなイメージで、溜めて圧縮した空気を出しながら前に出るようにしてください。これが技法の名前も「嚔抜」の由来です。
呼吸法、そして基本の動作全てを注意して稽古して下さい。

 

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