合手礼(がっしゅれい)
合手礼は座礼の中で通常用いられる最敬礼です。
天心流では生活に根ざした技法が多いため、武家礼法を重視します。
実践
手順解説
今回は、「座礼(ざれい)」と呼ばれる、座って行う礼法の中から、合手礼の解説を行います。
合手礼は、武家で用いられる通常の礼法の中では最敬礼の一つになります。
技法の中でも用いられますし、稽古始め、稽古終わりなど、頻出する礼法です。そのため、非常に難しい礼法ですが、しっかり覚えるようにしてください。
では、実際の合手礼の手順を解説していきます。
まず、体を前傾しながら、左手から、手のひらを床に付けていきます。
基本的に刀のある方の手から、手を付けていきます。
刀が左右にない状態、脇差のみを帯びている状態の場合は、左手で脇差の鯉口を切らないということを示すために、左手から床につけていきます。
そして、右手もつけていきます。この時、両手の指先は内側を向いた状態です。
両方の手のひらを床に付けた後、両肘を床に付けます。
面を伏せる時間はおよそ5秒です。その後、頭を上げ、先ほどとは逆の手順で手を戻していきます。
先ほどは左手、右手の順番で手を出しましたので、右手、左手の順番で手を戻し、体を起こします。
間について
礼を行う際の時間の目安は次の通りです。
一つは面を伏せた状態で五拍、一般的に言えば5秒静止した後、面を上げます。
もう一つの種類としては、三呼吸、という言い方があります。
ゆっくりと息を吸って・・・吐き切る。これを一呼吸として、これを三回行う間に手をつき、面を伏せ、起きるという動作を終えます。
少し大きめに、呼吸が聞こえるように行ってみようと思います。
※わかりやすく呼吸音を出しています。
まずは一呼吸目。
おおよその目安ですが、このように三呼吸の間に、手をつき、面を伏せ、静止した後に、面を起こし、元の扇坐(おうぎざ)と呼ばれる姿勢に戻ります。
ここまでを三呼吸で行います。
これはあくまでも目安なので、実際の場合は面を伏せたままの姿勢をキープしながら、お話を伺うことも往々にしてありましたが、通常の礼法では、この程度の秒数を守って礼を行っていただければと思います。
手の形と位置について
手の形についてです。まず、座している状態では平手(ひらで)という形をとります。親指の爪を隠すように、親指を内側に少し折り曲げます。
この状態から手を付けていきますが、その際の手の形は自然な形になるといえばよいのでしょうか・・・、人差し指から小指までの四指を揃え、人差し指は自然と開いた状態になります。
流儀によっては親指と四指をピーンと反らし、両手で完全な三角形を作るようにし、さらに両手を付ける礼法を行います。しかし天心流ではこの両手の間はやや離します。そして親指は自然とした状態にします。
この両手の間隔は、扇坐の際に両手を鼠径部に垂らしますが、その時の両手の隙間を保った状態になります。
両手の間隔は開き過ぎず、閉じ過ぎないようにします。この間隔はとても難しいですし、また正確に何センチメートルと決まっているわけでもありません。
まずは正しく扇坐になり、おおむねこのスペースで手をつくということを目安として稽古してください。
手の平を置く位置についてです。
礼を行ったときに、自分の鼻の頭が両手で作った三角形の中央に来るようにしてください。
その位置は、個人差はあるものの、まず両手のひらを膝前につけ、そこから手のひら一枚前に動かし、そしてさらに手のひら半分ほど前に動かした場所になります。
この位置は個人差がありますので、自分の鼻の頭が来る位置を自分の感覚で覚えるようにしてください。
所作の手順について
刀を置いている場所と、手の出し方について解説します。
まず脇差のみを帯びており、さらに我の後ろに刀を置いている状態では、メインウェポンは脇差になります。
この脇差の鯉口を切らない、ということから、まず左手を床に置き、続いて右手を床に置いていきます。鯉口が固い状態ですと、右手で刀を抜こうとしても鞘ぐるみで刀が外れてしまいます。
もしも右手から床に置いた場合、左手は温存していますので左手で鯉口を切り、咄嗟に右手で刀を抜くことが可能となってしまいます。
そのため、まず左手を床に置き、抜刀を安易にできないようにし、続いて右手を床に置きます。そして礼を行ったのち、先ほどとは逆の手順で手を戻します。すなわち、先に右手を戻していきます。こうすることで、先ほどと同じようにやはり右手のみで刀を抜くことができません。この時、誤って先に左手から戻してしまうと、鯉口を切って抜刀することができてしまいます。ですから、先に右手、そして左手で戻していく手順が大事です。
大刀が左に置いてある場合でも同じ考えです。
刀を置いてある方、すなわち左手から手を置きます。この時、右手を先に置いてしまうと、左手で刀を取り、鯉口を切って右手で刀を抜くことができてしまいます。
手を戻す時も同じ考えです。左手、右手、そして礼を行ったのち、右手、左手の順番で戻していくことで、刀を取ることが非常に難しくなります。しかしここで左手を戻してしまえば、左にある刀を左手で容易にとることができ、速やかに右手で刀を抜くことができます。
そのため、大刀が左に置いてある場合は、左手、右手の順で手を置き、礼を行った後は、必ず右手、左手の順を守るようにしてください。
大刀が右に置いてある場合でも同じ考えですが、動作が逆になります。
刀が置いてある方、すなわちまず右手、次に左手の順番で手を置きます。この場合も、先に左手を置いてしまうと、メインウェポンである大刀を右手で容易く取ることができ、やはり刀を抜くことができます。
しかし、冒頭の解説にあったように、先に右手を置くということは、脇差を抜くという観点では左手で鯉口を切れるので、脇差を容易に抜くことができてしまいます。
しかしそれでも敢えて右手から置くのは、この場合のメインウェポンは大刀だからです。
基本的に、武士にとって重用する、重視する武器はまずメインウェポンである大刀であり、次にサブウェポンである脇差です。もしも大刀を自分の近くに置いていない場合、ないしは自分の後ろにおいて使用できない場合は、サブウェポンである脇差はメインウェポンに格上げとなるため、脇差を使わないということが礼法において重要となります。
そのため、大刀がない場合、もしくは後ろに置いてある場合は、左から手を置くことになります。
ですから、右に置いてある場合は、右手、左手、そして礼を行った後は必ず左手、右手の順で戻すようにします。この順番を逆にしてしまうと、右手で刀を取ることができてしまうので、容易く刀を抜くことができてしまいます。
そのため、右手、左手、そして礼を行った後、必ず左手、右手の順で戻すようにします。

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