位の事

「位(くらい)」とは天心流において「即座に最適な動きができるように整えた体勢」のことを指し、一般には「構え」と呼ばれています。
しかし構えは謂わば主体的な言葉であり「固定化された定形)、不変の絶対的なもの」と捉えてしまうおそれがあります。
実戦においては、敵(の姿勢(構え)や周囲の環境、状況、天候、また自らのコンディション(体調の良し悪しや疲れていないか、怪我していないかなど)も含めて、臨機応変に最適化して位を変化させる相対的なものでなければなりません。
そのため天心流では構えという用語ではなく、位を正式な名称として用いています。
もちろん天心流における位も、基本的な形は決まっていますが、それは原理原則の学習のためです。

「位(い)」という文字には「物の置かれた場所や位置、他との関係から見た位置」という状態・状況の意味があります。
そして戦(いくさ)における兵術(へいじゅつ)、兵法(へいほう)において位とは、「敵を制圧する位置。陣形(じんけい)」を意味する用語としても用いられてきました。
これも天心流が「構え」という用語を避けて「位」を用いる理由の一つです。

もっとも実際には「構え」という語は、「構える」という動詞としても用いることもあって、稽古中に指導の中でも使用しますし、「絶対にその用語の使用を禁止する」というような性質のものではありません。
しかし前述したように、流儀としての重要な考え方を含むため、正式には位の語を用いるということを覚えておいてください。

またこの「位についての全般の教え」を天心流では身伝(みでん)と呼びます。
戦いに必要な、根本的な身(姿勢)のあり方の教えというような意味です。

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