上げ合掌(あげがっしょう)とは、抜刀時に正しく刀に手を掛けることを学ぶための教えです。
合掌柄下し(がっしょうつかくだし)、別名「下し合掌(くだしがっしょう)」と対(つい)になります。
「合掌する如く柄に手を掛ける」ものであり、ごくシンプルな動作ですが、正しい抜刀のためには必須のものです。
徹底して稽古するようにして下さい。
手順について
動作は極めて単純です。
臍前で合掌するようなイメージで、両手を刀に掛けます。
この際、両肘を脇腹に付ける(脇を閉じる)ように意識して下さい。
修正方法
1、過剰なまでに脇を締める
やや極端、過剰なまでに両肘を両肋に付けて合掌を繰り返します。
両肘で、自分の横腹を擦り、肋を強く内側に押し込むような心持ちで行いましょう
この時、両肩も内側に窄める働きが伴います。
2、分割して行う
また最初は二挙動に分割すると良いでしょう。
合掌を急がずに、まず両脇を十分に閉じます。そして脇を締める働きを感じた後に、合掌の動作に移るようにします。慣れるまでは、また慣れてからも、定期的に手を掛ける動作を二段階に分けて行って下さい。
①肘を窄める
②刀に手を掛ける
また右手を柄に掛ける際には、握らず開手のままに添える心持ちで行いましょう。
3、合掌から変化していく
また実際に合掌を行い、その合掌の高さを、徐々に下げていき、最終的に刀の高さで合掌するように、刀に手を掛けましょう。
次のステップ
この動作に十分に慣れたら、次は出来るだけ素早く手を掛ける訓練をします。
出来るだけ脇を締めつつ、出来るだけ素早く手を掛けるという動作を繰り返し行います。
そして、次のステップでは、実際に途中まで抜刀してみます。
出来るだけ脇を締めながら、素早く刀に手を掛けて、鯉口を切って抜刀を行い、半分ほど刀を抜き出した辺りで止めます。
ここで最後まで抜刀してしまうと、脇を締めて刀に手を掛けるという肝心の意識が欠如しやすくなります。
稽古目的に集中するために、必ず途中で動作を止めて行うようにして下さい。
草書(離)の急について
この稽古法は、主に楷書(守)において行い、遵守すべきものとなります。
そのため、草書(離)、特に急の場合は、解説した内容は完全に守られるものではありません。
このように、実戦的な速度においては、自然と脇が開くのは問題ありません。
こうした楷書(守)と草書(離)の乖離は修行者を悩ませる難しい問題です。
基本的には、楷書の段階で徹底的に身に着けた運動、身体機能は、草書の段階では自ずと最適化され、必要なだけ運用されます。
しかし時に楷書としての正しい形に拘泥することで、草書の段階の動きを阻害する場合があります。
それを防ぐために、動画内、オンラインやリアルの指導内において、常に細かく指示と解説を行っています。
しかし、そうした遠回りも稽古では避けて通れないものでもあり、ミスを犯さなければ得られないものも存在します。
常に自らの動作を確認し、ミスに気づいて修正することで、自分で自分を成長させる段階に到達出来ます。
特に現代人は合理性や効率、時短という言葉に踊らされ、必要な努力や必要な経験、必要な回り道も避けようとして、却って合理性から乖離し、非効率的な道を歩む嫌いがあります。
誰もが失敗を好みませんが、必要な失敗に耐えることが、成長には必須になります。
いわば失敗アレルギーが蔓延しており、これが多くの人々の成長を阻んでいます。
稽古の目安
特に決まった回数はありませんが、ゆっくりと20回程度、素早くは30回程度、また素早く半抜きにするのを30回程度を目安として繰り返して下さい。
そしてすべての稽古法、技法に共通しますが、修得した後も折に触れてこれを行うことで、身体能力の向上と最適化の確認と、さらなる向上が見込めます。
刀に手を掛けずに抜刀する事は出来ません。
そのため手を掛けるという動作は最重要所作とも言えます。
手を掛けてから抜刀するのではなく、手を掛けるや否や抜刀するという天心流の抜刀技法を修得するための第一関門です。
心して取り組んで下さい。

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